ビスケット通信
小説(とたまに絵)を書いてるブログです。 現在更新ジャンルは本館で公開した物の再UP中心。 戦国BASARAやお題など。
桜吹雪(毛利と天海/戦国)
- 2011/04/23 (Sat)
- 戦国バサラ |
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ひらひらと、頭上から花びらが落ちてくる。空中を舞うそれは、季語は夏だが、春の花――桜。
そんな、薄紅色をした世界に、元就は佇んでいた。
片膝をつき、空いた右手で広げた包みから桜餅を口に運ぶ。
元就がこの場所を訪れたのは、政務をしていた元就の元へ掃除回りの侍女が訪れ、いつものように退室しようとした元就をふと呼び止めれば、良い機会だから息抜きに…とこの桜が美しい場所を教えられてのこと。
竹で作られた水筒の水を一口飲めば、ほっと一息を吐いた。
穏やかな気候が、眠気を誘う。
重くなる瞼に、思わずうつらうつらと微睡む。
子守唄のような木々のざわめき。
桜吹雪が、ひとつの足音を紛らした。
訪れた者は、眠る元就の穏やかな表情に、にこりと微笑む。
「…誰だ」
「あ」
ぱちりと目を見開いた元就は、訪れた者の姿を確と捉えていた。
「起こしてしまいましたか」
微笑むそれは、白と黒。銀髪に、口元を覆い隠す黒い鉄仮面。白い袴に淡い紫の染色。肩を覆う甲冑は黒く、飾りに付けられた羽は鴉の物。
穏やかに見える目の奥に、何か秘めたものを、元就は感じた。
微かな殺気と警戒を見せる元就に、白と黒の男は心外そうに肩を竦めて見せる。
「そう警戒せずとも、私はただの僧ですよ」
「僧らしからぬ」
「はは…よく言われます」
失笑を浮かべて、それから悠然と頭上を見上げた。
そよぐ風が長い銀髪と、元就の茶髪をはためかせる。
「此処は、心地好いですね」
風が止んで、男は元就にそう言った。
本当は呟きにも聴こえたのだが、元就には何故か、自分に言われたような気がした。
「此所には、初めて来た」
そして、普段なら必要の無い問いには答えないはずの元就が、自然な答えを返した。
言葉を無意識に紡ぐなど、普段ならあり得ないこと、元就自身、はっと不思議に思う。
けれど何故か、嫌ではなかった。
そんな元就の動揺を、男は気付いているのかいないのか、定かではなく。ただひたすらに、足元の花びらを爪先で遊んでいた。
「宮島へ向かうのか?」
「はい?」
男は、問われた質問に視線を元就に向ける。
「…安芸の宮島への参拝に来たのだろう?」
「ああ、そうですね、そうしましょうか」
「他にも何か用事があるのか?」
「鍋でも食べたいですねぇ」
「話を聞いておるか?」
「えぇ、聞いてます」
いまいち噛み合わない会話に相手が本当に僧なのだろうかと怪訝に思う。
そもそも元就の格好からして武家の人間だと分かる者に、飄々と話しかける僧など聞いたこともない。
刺客か偵察か、あるいはただの軽薄な僧か。
何であれ、注意することに損は無い。
「此処は、心地好いですね」
「先ほども聞いたが」
と呆れた元就に、
「そうではなく」
と返した男は、続けて
「貴方の居るこの場所が心地好いのですよ」
と、芝居のようなことを言った。
「………?」
意味のわからない言葉の真意を勘繰るものの、その言動は昔どこかで聞いたことがあるような気がする。それがいつだったか、思い出せずに首を傾げる。
「…貴様、何処かで会ったか?」
「隣に座っても構いませんか?」
「問うておるのは我だ、質問に答えよ」
苛立たしくなるのは何故か、分からず。その分からなさに、不愉快さが増す。
「当であり、否であり。…あの、隣に」
「断る」
しゅんと項垂れ、近くの木に寄りかかる。
やはり、その顔には見覚えがあるような気がした。
ひっかかるものを感じ、細かく、駆け巡る記憶から合致する人物を探していった。
城下に降りた際、遠征に行った際、戦の際、出会った者、一人一人思い浮かべては、消していく。
…と、記憶を掠める者を見つけた。
以前、尾張への遠征途中山崎の地で出会った、水色桔梗を掲げる軍の総大将に、男は似ていた。
あの時出会った男は、死神と呼ばれ、狂気が体全体から瘴気として滲み出ていた。
刃を交えながら、男は嬉しそうな目で、元就のことを自分と同じだと例えた男に、苛立ちを感じた。
主人である織田信長を噛み殺すとのことで、ゆくゆく安芸を危機に脅かすだろう織田信長を討つのならば、とその時は見逃した。
その後は姿を見かけたことは無い。
ただ―――中国にて毛利軍と、羽柴秀吉…後の豊臣秀吉率いる織田軍が刃を交え、その戦に兵の大半を向かわせていた為、人手の少なくなった本能寺に夜襲をかけた男は織田信長を討ち、豊臣により捕らえられ幽閉されたが、その後幽閉地から脱走し、幾つかの国を潰した後は、消息不明である―――と、元就は噂に聞いていた。
今、元就の目の前に居る僧が当時の男と同一人物であるならば、あるいは、その男と血の通う者だとしたら、元就の感じた違和感の説明がつく。
「…貴様」
呼ばれた、というより投げ付けられた声に「はい、なんでしょうか?」と暢気な声が返ってくる。
「名は、何と申す」
答えが返ってくるのに、やや時間あって。
「天海と申します」
天に海と書いて、天海。
当時の男とは違う名前。
名前を変えたか、あるいは本当に別人であるのか。どちらの可能性もある。
だがよく考えれば、纏う雰囲気は違い、髪型も俄に違う。
「あの、私の顔に何かついてますか?」
「いや…昔会った者に似ていたからに、同じ者かと思ったのだ」
疑いすぎた、と元就は己を咎めた。
「あの」
何用かと首を向ければ、天海は元就の手元にある包みをちらちらと見ていた。
「それは、桜餅…ですか?美味しそうですね」
三つ持ってきたうちの一つは先ほど元就が食し、残り二つとなっていた。
「…そうだが、貴様になどやらぬ」
甘党の元就が大事な甘味を天海にあげるはずなど無かった。
「おやおや、残念ですねぇ」
元就に見せた悲しそうな表情が、どこか嬉しそうに感じたのは気のせいか、否や。
「…さて、私はそろそろ暇いたします。きっと今頃、新しい主人が泣いているでしょうから」
「主人…?誰かに仕えておるのか」
必要な言葉だけを広い問いかけるが、天海は「そのうち貴方も会えますよ」と意味深な答えを返すだけだった。
「それはどういう―――」
突然、強い風に桜の木がざわめいた。
桜吹雪に言葉と視界を遮られ、腕で目を覆う。
漸く止んだ風に腕を退ければ、目の前にあったはずの天海の姿が無かった。
残ったのは、静けさと、落とされた桜の花びらに混じる黒い羽が一枚。
それから、
「…桜吹雪に紛れるとは、小癪な」
一つだけになった、桜餅だけ。
2011.4.23.
【桜吹雪】
以下半年後ギャグ
「以前貴様が食うた桜餅の返礼を頂きにきた」
「ようこそ元就公…さ、こちらへ」
「うむ」
「あ!毛利さま天海さま!丁度鍋がいい感じになってますよ!」
「美味しそうですねぇ、さすが金吾さん」
「えへへっ♪」
「…おい光秀」
「天海ですよ」
「…この緑のものは…」
「それね、片倉さんとこから美味しい葱とオクラを頂いて、鍋…あ、あれ、毛利さま何故怒っ…ひぃぃぃっ!」
「金吾、覚悟せよ」
「嫌ですぅぅぅ助けて天海さまーっ」
「…金吾さん、大丈夫ですよ…きちんと私が弔ってあげますからご安心を」
「えええ天海さばぁぁーっ?!」
終われ。
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