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ビスケット通信

小説(とたまに絵)を書いてるブログです。 現在更新ジャンルは本館で公開した物の再UP中心。 戦国BASARAやお題など。

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その領域には届かない(光就前提の親→就/お題)

  その領域には届かない。
  氷で固められた、深い領域には。






 それは何時も唐突だった。

「よう元就、何だ夜這いか?って、違うか」

 何の連絡も無しに元就が会いに来るだなん
て事すら珍しいのに。部屋に飛び込んで来た
途端に、胸に顔を埋めてきた。それはまるで
子供が親にすがりつくような抱きつき方だ。

「ちょ、そ…か、べ」

 たどたどしく稚拙に紡がれた元親の名。
 元親はただただ驚くばかりで、動揺に頭を
かかえたくなった。でも、きっと元就に何か
あったんだろう。辛い事を言われたのかもし
れない酷い仕打ちにあったのかもしれない、
逆に、何か元就にとっては辛かった事をした
のかもしれない。慰めになるか分からなかっ
たが、せめての思いで、震える頭をゆっくり
と撫でた。

「元就…」

「ちょうそかべ、長曾我部、元親」

 変わらず震えたままで、何度も何度も元就
は名前を呼ぶ。

 撫でれば撫でるほどに元就の震えは悪化を
見せているようで、かといって止めるわけに
もいかず、ただ頭を撫でてやる事しか、出来
ない。それでも尚、元就は不安気な声で元親
の名を口にしていたが、そのうち落ち着いて
きたのか、我は、我はと、違う単語が混ざり
始めた。

「我は、我は何故、生きて、いる」

 そんな唐突な質問をされて、困惑しない者
はいないだろう。何故生きているのかなんて
自分にもわからない。なのにそんな事を他人
に訊かれて答えられるはずもない。どう答え
ていいのかわからず、視線を宙に游がせた。

 やがて元就の呼吸が荒く早く乱れが混じり
始め、涙が頬から流れた。

「なぁ長曾我部…我は何故生きている?」

「もとな…」

「わからぬ、分からぬ!
 我は生きる価値が無い
 あれがおらねば何のために生きているか
 分からぬのだ
 我が生きる価値を見出だしてくれるのは
 唯一この世であ奴しかおらぬ
 光秀ただ一人だけしかっ!」

 答えを求めていなかったのか、元就は嫌だ
嫌だとただをこねる子供ねように首を左右に
振った。そして見上げた元就の切な気な瞳の
中に元親の姿は映っていない。
それが辛く哀しいと思ったが、最初から元就
の瞳に映る事なんて無に等しかったのだ。
そう気付いたのはいつ頃だっただろうか。
 そんな思いにふける元親にも構わず、元就
がドンドンと元親の胸板を叩くのは、明智へ
の怒りなのかはたまた哀しみの悲痛な叫びな
のか。元親はそれを黙って受け止める事が、
精一杯の宥めだと思った。

「なのになのにっ!
 我は…… 何故…何故?
 何故だ何故だどうして我は
 国を捨てるという判断もあったのに、
 我はそれが出来なかったのだ!
 光秀…光秀…」

 元親には名を口にしたくない程に気にくわ
ない男の名前を、元就はただ一心不乱に叫ぶ
ばかりでまともに此方を見てくれない。
 元就が落ち着くまで抱き締めることしか
出来ないのが悔しい。

「我はあれがおらねば何も出来ない
 あやつが居ぬ限り笑えぬ、作り笑いをする
 事も出来ぬのだ!まともに仕事をする事も
 手につかぬし呼吸をする度に光秀の苦痛を
 感じるようで苦しくて息もままならぬ!!
 どうしたら良いのだ長曾我部、
 我は、我は光秀がなき後も奴からはのがれ
 られぬ いまも、昔も、これからもだ!
 あやつからは逃げられぬッ…」

 胸にしがみつく指が握られて服が締め上げ
られる。布越しとはいえ爪が皮膚に食い込ん
で痛みを伴う。

「夜な夜なあやつが泣くのだ枕元で、
 我の名を刹那に呼ぶのだ
 痛い痛いと、嘆くのだ
 だが我は何も出来ぬ。見ていることしか…
 我はあやつを助けてやることも出来ぬ
 あれを葬ったのは我なのに
 我なのに!!」

 厳島の惨劇が元親の脳裏を過る。
血に濡れた元就と、こと切れた明智。下唇を
噛み締め涙を流す元就は、今にも輪刀で自ら
を切りつけて、自害をする瞬間だった。それ
を止めた元親。抵抗する元就を気絶させ連れ
帰ったのは良かったが、数日間は錯乱状態で
手のつけようが無かった。

 織田信長の命で瀬戸内に攻め入った、明智
光秀率いる織田軍。きっと明智は、最初から
元就を殺める気は無かったのだと元親は考え
ている。だけど元就は自分の守るべき国を、
恋人とはいえ多軍に攻め入らせる事は出来な
かったんだろう。
 恋人を已む無くといえ殺めてしまった事を
元就は何時までも後悔している。前を見れず
後ろばかりを見て、進む事を拒んでいる。

「長曾我部我を助けよ
 助けよもとちか我を助けてくれ
 元親、頼むから
 たすけて たすけて我を助けてくれ
 ころせ我をたすけよ
 助けよ 殺してくれ 頼むもとちか
 われをあいしているのならば我を助けよ
 ちのそこからすくいだしてみせよ
 頼む助けてくれ!
 殺してくれもとちか頼むから!
 たすけて助けて助けてたすけてくれッ」

 錯乱した元就にはどんな声も届かない。
だけど、そんな元就を昔から変わらずに今も
愛し続けている。だからこそこうして黙って
抱き締めているのに。

「やはりお前もわれを見捨てるのか
 母上と同じように愚かに見捨てていくのか
 我が怖いのか恐ろしいのか不浄なる狂気を
 交えた穢らわしい血が流れている我が
 忌々しい関わりたくないと思うのか
 そうだろう長曾我部?
 やはり我が嫌なのだろう?
 だから貴様は助けないのだこの苦しみから
 解いてもくれぬのだ すべて我には
 分かっている分かっているのだ!」

「お前は、不浄なんかじゃねぇよっ…」

 やっと紡いだ言葉すら、前向きに受け取っ
てはくれない。助けたいのに助けられない。
 元就を楽にさせてやりたい、だけどそれは
出来ない。元就が望む救世主は此処にはいな
いのだから。

「だったら何故我を助けてはくれぬのだ
 この苦しみから痛みから我を解放してくれ
 ぬのだ。 やはり、
 我をあいしていないからだろう 怖いのだ
 ろう
 汚ならしい血が、あの光秀を殺めた、
 我が、嫌なのだろう?
 だから貴様は我を助けぬ! 殺さぬ!

 ああ殺してくれこの不浄な血を絶ってくれ
 我を殺してくれ、
 光秀のおらぬ世に未練は無いのだ元親
 だからこの穢れた血が流れた身から解放し
 てくれ頼む元親我を殺せ、殺せ
 我を、殺してくれ
 頼む…頼むからっ…
 ころしてくれ、たのむ…ちか…ちか」

 ぷつりと、糸が切れたように元就は静かに
なった。

「元就?…良かった…死んじゃいねぇか…」

 叫び疲れたのか、精神的に限界だったのか
 元就は目を瞑って、穏やかに寝息をたてて
いた。辛そうな顔をしながら、意識を手放し
て尚も涙を流し続ける元就の涙を指で拭う。

「元就、前を見てくれ…俺を見てくれよ…
 こんなにもお前を心配しているんだ
 なぁ、生きてくれよ…お前を殺すなんて、
 俺には出来ないんだ…元就…」

 抱き締める腕に力をこめた。
 死なないでくれと刹那に願いながら。
 いつか元就が戦場で見せた輝きを、脳裏に
思い浮かべながら。



―――――――――終
2010/3/12

『その領域には届かない』
お題配布元… 月と戯れる猫 様
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堕天使エレナ
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女性
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学生
趣味:
絵描き 執筆 読書 ゲーム 寝る 妄想 便せん作り
自己紹介:
うえのイラスト画像はいただきもの。
オンラインでは執筆を
オフラインではイラスト中心に活動中デス
ギャルゲー、音ゲー、RPG系、シュミレーションゲームが好き
格ゲーやアクションは苦手

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