ビスケット通信
小説(とたまに絵)を書いてるブログです。 現在更新ジャンルは本館で公開した物の再UP中心。 戦国BASARAやお題など。
甘味が似合うツンデレラ2(光就/就誕)
- 2010/03/14 (Sun)
- 戦国バサラ |
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★ 甘味が似合うツンデレラ2 ★
消された電気、ゆらめく蝋燭。何処か陰陽
な、普段とは違う雰囲気をかもし出す。顔が
蝋燭に照らされ、光秀は普通に浮かべている
だけなのに不気味に怪しく見え、それに対し
元就の方は能面のように不機嫌な顔が、更に
怖い表情になっている。
カラフルな蝋が熔けていくのを無言で見つ
める元就に、もしや火を吹き消す事を知らな
いのでは、と些か不安に思っていたが、何の
前触れも無く蝋燭の火は吹き消された。
灯りを無くした室内に再び静寂が訪れる。
静寂には慣れているとはいえ、何とも言えな
い思い雰囲気はどうしたものかと、光秀は首
を僅かに傾げた。互いに相手の顔が見えない
中で、何を思うのか。
「電気、点けませんか…?」
耐えきれなくなったのは光秀の方だった。
苦笑気味な声が、部屋の妙な緊張を解す。
「…ふん」
闇のなか頷いたらしい元就は立ち上がり、
知れた部屋だと安心しきっていたのか何処か
にぶつけたような衝突音が闇に響く。だがそ
れすら元就は全く気にとめずに、スイッチを
押して部屋の灯りを点した。
その瞬間、闇に慣れてしまった目が久々に
光を取り入れた為なのか、暫し蛍光灯の光が
眩しく見えた。
元就を見れば、軽く涙目になりかけている
のはやはり先ほどの衝突音が関係しているの
だろうかと苦笑いしそうになる。だが正直に
大丈夫ですかとか痛そうですねと慰めの声を
かけようものならば彼はきっと、それを皮肉
の言葉と受け取る。元就はそういう人物だ。
別名ひねくれた性格とも云う。
故に光秀は、何事もなかったかの様に平素
を保とうとしている元就に合わせ、こちらも
何事もなかったかの様に微笑み続けて椅子を
静かに引いた。
「おや、ケーキを切り分ける包丁が無い…
それに小皿もありません…取ってきます」
キッチンへと取りに行こうとした光秀に、
元就はあっ!と慌てた声を荒げた。突拍子も
無くあげられた声に、何事かと半分腰を上げ
たまま元就を見る。
「あ…いや、切り分ける包丁と小皿だな、我
が取りに行く。光秀は待っておれ」
物静かな元就にしては珍しく、慌ててガタ
リと勢い良く音をたてて椅子から立ち上がっ
て、足早に彼は走っていった。
*―*****―*
一枚、二枚…と、二枚の取り分ける小皿を
食器ケースから取り出し、軽くお湯で温めた
ナイフを上に置く。
「あと、フォーク…」
引出しから、シンプルな物とファンシーな
愛らしい熊が柄の先端に付いているフォーク
を取り出した。可愛らしいフォークは無論、
元就が使う方ではない。光秀が使う。何ゆえ
こうも女々しい趣味をしているのだろうかと
思い若干引け目で見てしまう。
とはいえ他人の趣味にとやかく言うつもり
も無く、フォークと小皿、切り分けるナイフ
を両手で持ち愛しいケーキの元へ、いや光秀
の元へと戻った。
「ん」
ナイフを突きだし、いや差し出して小皿等
を机に置く。無言で目の前に迫ったナイフに
一瞬どきりとしたが、苦笑しながらも光秀は
それを受け取れば元就は椅子に座り直す。
「私にケーキを切れと…」
「当たり前だ。今日の主役は我だろう」
今日だからでなくとも二人の上下関係から
して何かさせられるのは光秀の方なのだが、
光秀はそれに大して文句もつけずに従う。
情人の有無も言わさぬ命令だからというの
もあるが、その従った分だけ、夜の情事にて
意地悪なり激しくするなり仕返しをしようと
疚しい反撃を腹の中で考えているから大人し
く従うのだが、それすらもきっと元就は承知
の上だ。
「じゃあ、切り分けますね」
こくりと頷いたのを確認し、光秀はケーキ
の上に刺さったままだった蝋燭を引き抜いて
から、ケーキの表目に刃を当て、まずは半分
に目安程度の切り込みを入れる。
何故そうするのだろうかと元就は首を傾げ
れば、その意を察した光秀がケーキに目安の
切り込み入れていきながら説明をする。
「計りを入れてから切るのは、いきなり切っ
て後から分が合わなくなってしまっては
困るでしょう?ですから、まずはこうして
目安の切り込みを入れてから切るんです。
大学を出た貴方なら分かると思ったんです
がねぇ…」
からかうように笑えば、真っ赤になって
元就は口をぱくぱくとさせて怒る。
「そ、それくらい我とて分かる!ただ計画性
の無さそうな貴様がそうやって、きちんと
計るのが珍しいと思っただけよ」
「んふふ…そうですか…」
そっぽを向きながら怒る元就に、やはり彼
はとても愛らしい反応をする、と光秀は内心
で呟き、だらしなく頬が緩んだ。一部始終を
他人が見ていたらそのほとんどはからかった
光秀に非があると答えよう。元就の非素直さ
を可愛いと答える者もいるだろうが。
切り分けたケーキを乗せた小皿を渡せば、
光秀にからかわれた事でむーっと不機嫌そう
に唸っていたはずの元就の目線がそれに向い
た瞬間、不機嫌が取れ仄かに笑顔を含む。
紅の苺が乗せられたオーソドックスな甘い
ショートケーキ。因みに今日の誕生日ケーキ
は光秀の手作り。
「…美味い」
一口食べた元就がそう溢した。その幸せそ
うな表情を見て、料理が得意で良かったと
思った。
料理が得意になったきっかけは、光秀が
大学を出てから暫くしてからだった。
全く働く気の無かった光秀は、大学を出て
から何処へ就職するわけでもなくふらふらと
していたのだが、それを見かねて声をかけた
のが光秀の従姉で監視役の濃姫だった。彼女
の幾度となる説得によって、その夫、織田信
長が経営しているドイツ料理を出す店で働き
始め、嫌々働いていたがなんだかんだで辞め
る理由も無く、もくもくと働き続けた結果が
自然と料理や菓子作りなどが得意になってい
たのだ。
初めそれを自慢すること無く生活していた
光秀が元就と出会って、様々な馴れ初めがあ
りこうして付き合う間柄になってから、初め
て料理が得意であって良かったと心から思う
様になった。作った料理を目の前で食べても
らえる事の喜び、そしてそれを、美味しいと
言ってもらえる喜びを、料理を作る者には
最高の喜びを元就には教えてもらえた。
「ありがとうございます、元就公…」
生き心地の無かった生活を変えた元就に、
感謝せねばと微笑み、光秀は知らずうちに礼
を言っていた。
「何だ、いきなり…」
無論唐突に礼を述べられた元就は、いきな
りのことで半分困惑気味といった表情で目を
まん丸くした。光秀が突拍子もない事を言う
のは日常茶飯だが、それでも何か裏があるの
ではないかと疑心感に囚われる。
「いえなんとなく、ね…
おや、頬にクリーム付いてますよ」
椅子を立ち、机越しに元就の頬に触れて、
ふっと指で掬い取った。
「なっ…」
赤くなる元就を余所に、光秀はしばらく生
クリームのついた指を眺めていた。
「?光秀…?」
――――――――――
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消された電気、ゆらめく蝋燭。何処か陰陽
な、普段とは違う雰囲気をかもし出す。顔が
蝋燭に照らされ、光秀は普通に浮かべている
だけなのに不気味に怪しく見え、それに対し
元就の方は能面のように不機嫌な顔が、更に
怖い表情になっている。
カラフルな蝋が熔けていくのを無言で見つ
める元就に、もしや火を吹き消す事を知らな
いのでは、と些か不安に思っていたが、何の
前触れも無く蝋燭の火は吹き消された。
灯りを無くした室内に再び静寂が訪れる。
静寂には慣れているとはいえ、何とも言えな
い思い雰囲気はどうしたものかと、光秀は首
を僅かに傾げた。互いに相手の顔が見えない
中で、何を思うのか。
「電気、点けませんか…?」
耐えきれなくなったのは光秀の方だった。
苦笑気味な声が、部屋の妙な緊張を解す。
「…ふん」
闇のなか頷いたらしい元就は立ち上がり、
知れた部屋だと安心しきっていたのか何処か
にぶつけたような衝突音が闇に響く。だがそ
れすら元就は全く気にとめずに、スイッチを
押して部屋の灯りを点した。
その瞬間、闇に慣れてしまった目が久々に
光を取り入れた為なのか、暫し蛍光灯の光が
眩しく見えた。
元就を見れば、軽く涙目になりかけている
のはやはり先ほどの衝突音が関係しているの
だろうかと苦笑いしそうになる。だが正直に
大丈夫ですかとか痛そうですねと慰めの声を
かけようものならば彼はきっと、それを皮肉
の言葉と受け取る。元就はそういう人物だ。
別名ひねくれた性格とも云う。
故に光秀は、何事もなかったかの様に平素
を保とうとしている元就に合わせ、こちらも
何事もなかったかの様に微笑み続けて椅子を
静かに引いた。
「おや、ケーキを切り分ける包丁が無い…
それに小皿もありません…取ってきます」
キッチンへと取りに行こうとした光秀に、
元就はあっ!と慌てた声を荒げた。突拍子も
無くあげられた声に、何事かと半分腰を上げ
たまま元就を見る。
「あ…いや、切り分ける包丁と小皿だな、我
が取りに行く。光秀は待っておれ」
物静かな元就にしては珍しく、慌ててガタ
リと勢い良く音をたてて椅子から立ち上がっ
て、足早に彼は走っていった。
*―*****―*
一枚、二枚…と、二枚の取り分ける小皿を
食器ケースから取り出し、軽くお湯で温めた
ナイフを上に置く。
「あと、フォーク…」
引出しから、シンプルな物とファンシーな
愛らしい熊が柄の先端に付いているフォーク
を取り出した。可愛らしいフォークは無論、
元就が使う方ではない。光秀が使う。何ゆえ
こうも女々しい趣味をしているのだろうかと
思い若干引け目で見てしまう。
とはいえ他人の趣味にとやかく言うつもり
も無く、フォークと小皿、切り分けるナイフ
を両手で持ち愛しいケーキの元へ、いや光秀
の元へと戻った。
「ん」
ナイフを突きだし、いや差し出して小皿等
を机に置く。無言で目の前に迫ったナイフに
一瞬どきりとしたが、苦笑しながらも光秀は
それを受け取れば元就は椅子に座り直す。
「私にケーキを切れと…」
「当たり前だ。今日の主役は我だろう」
今日だからでなくとも二人の上下関係から
して何かさせられるのは光秀の方なのだが、
光秀はそれに大して文句もつけずに従う。
情人の有無も言わさぬ命令だからというの
もあるが、その従った分だけ、夜の情事にて
意地悪なり激しくするなり仕返しをしようと
疚しい反撃を腹の中で考えているから大人し
く従うのだが、それすらもきっと元就は承知
の上だ。
「じゃあ、切り分けますね」
こくりと頷いたのを確認し、光秀はケーキ
の上に刺さったままだった蝋燭を引き抜いて
から、ケーキの表目に刃を当て、まずは半分
に目安程度の切り込みを入れる。
何故そうするのだろうかと元就は首を傾げ
れば、その意を察した光秀がケーキに目安の
切り込み入れていきながら説明をする。
「計りを入れてから切るのは、いきなり切っ
て後から分が合わなくなってしまっては
困るでしょう?ですから、まずはこうして
目安の切り込みを入れてから切るんです。
大学を出た貴方なら分かると思ったんです
がねぇ…」
からかうように笑えば、真っ赤になって
元就は口をぱくぱくとさせて怒る。
「そ、それくらい我とて分かる!ただ計画性
の無さそうな貴様がそうやって、きちんと
計るのが珍しいと思っただけよ」
「んふふ…そうですか…」
そっぽを向きながら怒る元就に、やはり彼
はとても愛らしい反応をする、と光秀は内心
で呟き、だらしなく頬が緩んだ。一部始終を
他人が見ていたらそのほとんどはからかった
光秀に非があると答えよう。元就の非素直さ
を可愛いと答える者もいるだろうが。
切り分けたケーキを乗せた小皿を渡せば、
光秀にからかわれた事でむーっと不機嫌そう
に唸っていたはずの元就の目線がそれに向い
た瞬間、不機嫌が取れ仄かに笑顔を含む。
紅の苺が乗せられたオーソドックスな甘い
ショートケーキ。因みに今日の誕生日ケーキ
は光秀の手作り。
「…美味い」
一口食べた元就がそう溢した。その幸せそ
うな表情を見て、料理が得意で良かったと
思った。
料理が得意になったきっかけは、光秀が
大学を出てから暫くしてからだった。
全く働く気の無かった光秀は、大学を出て
から何処へ就職するわけでもなくふらふらと
していたのだが、それを見かねて声をかけた
のが光秀の従姉で監視役の濃姫だった。彼女
の幾度となる説得によって、その夫、織田信
長が経営しているドイツ料理を出す店で働き
始め、嫌々働いていたがなんだかんだで辞め
る理由も無く、もくもくと働き続けた結果が
自然と料理や菓子作りなどが得意になってい
たのだ。
初めそれを自慢すること無く生活していた
光秀が元就と出会って、様々な馴れ初めがあ
りこうして付き合う間柄になってから、初め
て料理が得意であって良かったと心から思う
様になった。作った料理を目の前で食べても
らえる事の喜び、そしてそれを、美味しいと
言ってもらえる喜びを、料理を作る者には
最高の喜びを元就には教えてもらえた。
「ありがとうございます、元就公…」
生き心地の無かった生活を変えた元就に、
感謝せねばと微笑み、光秀は知らずうちに礼
を言っていた。
「何だ、いきなり…」
無論唐突に礼を述べられた元就は、いきな
りのことで半分困惑気味といった表情で目を
まん丸くした。光秀が突拍子もない事を言う
のは日常茶飯だが、それでも何か裏があるの
ではないかと疑心感に囚われる。
「いえなんとなく、ね…
おや、頬にクリーム付いてますよ」
椅子を立ち、机越しに元就の頬に触れて、
ふっと指で掬い取った。
「なっ…」
赤くなる元就を余所に、光秀はしばらく生
クリームのついた指を眺めていた。
「?光秀…?」
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甘味が似合うツンデレラ1(光就/就誕)
- 2010/03/14 (Sun)
- 戦国バサラ |
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★ 甘味が似合うツンデレラ1 ★
「何故失敗するっ!」
オーブンレンジの前でじたんだを踏む。
中には、萎んだ茶黒い塊がぷすぷすと煙を
あげており、キッチンには酷く焦げ臭い匂い
と黒煙が立ち込めていた。
何か黒い塊…クッキーに成るはずだった塊
をゴミ箱へと投げ入れる。既にゴミ箱の中に
は失敗した物が溜まりに溜まっていた。
――何故こうも、ただの菓子如きに、
我が苦戦せねばならぬ…
昔から、何をやっても器用にこなし褒めら
れていた元就だが、菓子作りは不向きな事は
自覚している。否、それ以前に、料理すらま
ともに作ったことも無い。
日々の食事は、コンビニの弁当や出前など
の即製品で済ましていた故、まさかこの歳に
なって菓子を作るとは思ってもいなかった。
やはり斯様な女々しい事、男には出来ぬの
だとぼやき、元就はシンクの台に突っ伏した
い気分になった。が、散乱する器具やら材料
がそれを拒む。更に虚しくなって、深い深い
溜息を吐いた。
そこでハッと時間の事を思い出した。
見上げた時計の短針と長針が示す現在時刻
は、午後3時丁度。光秀が来るのは4時半。
あと1時間半しか無い。新たに作り直すのに
はかなり厳しい。
冷蔵庫で未だ本来の役目を果たされずに、
生クリームや果物が程よく冷やされて入って
いる。適当にそれらをどうかしてみようかと
考るも、全くの料理初心者の元就には何も
思い浮かばない。
考えてもただ時間が過ぎてゆくばかりで、
仕方なく散らかったキッチンに背を向ける。
とりあえず、軽く部屋の片付けでもしようか
とその場を後にした。
事の次第は、先月バレンタインという行事
をすっかり忘れていて、光秀から貰うだけに
終わった事と、今日がホワイトデーだったと
いう事をまたも忘れていた事が、慌ただしく
している理由。
即製品の飴や何かで返しても良かったのだ
が、せっかく光秀が手作りでチョコを作って
くれたのだから此方も手製で返さなければい
けないような、気がした。立ち寄った駅前の
書店で、菓子作りの本を手当たり次第に読み
漁った上そのうち数冊を購入し、スーパーで
材料を買い、家に帰り作り始めたは良かった
のだが失敗続き。
そして冒頭に至った次第。
「ふぅ…この程度で良いか…」
所隅々まで綺麗に掃除され、片付けられた
室内を見て満足感に浸る。とはいえ、元就の
部屋には、元から家具や小物などがそれほど
置いてなく、几帳面に毎日大掃除並の掃除を
しているのだが。
――りん
ふと鈴の音が聞こえた気がした。
――リーンローン
否、チャイムの音だった。
片付け終わった室内へ響いたチャイムに、
スリッパをパタパタと音をたてながら、ドア
を開けに行く。
「元就公、開けて下さい」
とんとんとん、と小さく数回叩かれた。
インターホンがあるにも関わらず、ドアを
叩くのは元就がそうしろと命じたから。元就
にはインターホンがうるさいと感じての事。
それでも、光秀は念のためと最初に一度チャ
イムを鳴らしてからドアを叩く。
一応覗き穴で光秀だということを確認し、
チェーンロックを外す。ドアを開けた目前に
広がる青白。否、明智光秀。正方形の、白い
箱を片手に笑顔を見せていた。
元就と光秀が会うのは約1ヵ月ぶり。バレ
ンタイン以来。その間どれほど会いたかった
かと、光秀は抱きつきたい衝動を堪え、唇に
挨拶程度ねキスをする。
「お誕生日、おめでとうございます」
そう告げれば、元就はきょとんとした。
「今日誕生日でしょう…お忘れですか?」
「あ、あぁ…そうだった…」
ホワイトデーだ何だと慌てていた為元就は
自分の誕生日という事に気付かなかった。
第一誕生日を祝ったり喜んだりしたことは
なく、おめでとうなどと、子供の頃以来から
久しく聴いてなかった言葉に何処かこそばゆ
さを覚えた。
「と、兎に角入れっ」
部屋に引き入れられ、否、引き摺り込まれ
急な事で多少驚いたが、光秀はなんとか靴を
脱ぐことには成功した。
…一瞬だけ見えたキッチンに、光秀は目を
瞑り見なかった事にした。
――――――――
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「何故失敗するっ!」
オーブンレンジの前でじたんだを踏む。
中には、萎んだ茶黒い塊がぷすぷすと煙を
あげており、キッチンには酷く焦げ臭い匂い
と黒煙が立ち込めていた。
何か黒い塊…クッキーに成るはずだった塊
をゴミ箱へと投げ入れる。既にゴミ箱の中に
は失敗した物が溜まりに溜まっていた。
――何故こうも、ただの菓子如きに、
我が苦戦せねばならぬ…
昔から、何をやっても器用にこなし褒めら
れていた元就だが、菓子作りは不向きな事は
自覚している。否、それ以前に、料理すらま
ともに作ったことも無い。
日々の食事は、コンビニの弁当や出前など
の即製品で済ましていた故、まさかこの歳に
なって菓子を作るとは思ってもいなかった。
やはり斯様な女々しい事、男には出来ぬの
だとぼやき、元就はシンクの台に突っ伏した
い気分になった。が、散乱する器具やら材料
がそれを拒む。更に虚しくなって、深い深い
溜息を吐いた。
そこでハッと時間の事を思い出した。
見上げた時計の短針と長針が示す現在時刻
は、午後3時丁度。光秀が来るのは4時半。
あと1時間半しか無い。新たに作り直すのに
はかなり厳しい。
冷蔵庫で未だ本来の役目を果たされずに、
生クリームや果物が程よく冷やされて入って
いる。適当にそれらをどうかしてみようかと
考るも、全くの料理初心者の元就には何も
思い浮かばない。
考えてもただ時間が過ぎてゆくばかりで、
仕方なく散らかったキッチンに背を向ける。
とりあえず、軽く部屋の片付けでもしようか
とその場を後にした。
事の次第は、先月バレンタインという行事
をすっかり忘れていて、光秀から貰うだけに
終わった事と、今日がホワイトデーだったと
いう事をまたも忘れていた事が、慌ただしく
している理由。
即製品の飴や何かで返しても良かったのだ
が、せっかく光秀が手作りでチョコを作って
くれたのだから此方も手製で返さなければい
けないような、気がした。立ち寄った駅前の
書店で、菓子作りの本を手当たり次第に読み
漁った上そのうち数冊を購入し、スーパーで
材料を買い、家に帰り作り始めたは良かった
のだが失敗続き。
そして冒頭に至った次第。
「ふぅ…この程度で良いか…」
所隅々まで綺麗に掃除され、片付けられた
室内を見て満足感に浸る。とはいえ、元就の
部屋には、元から家具や小物などがそれほど
置いてなく、几帳面に毎日大掃除並の掃除を
しているのだが。
――りん
ふと鈴の音が聞こえた気がした。
――リーンローン
否、チャイムの音だった。
片付け終わった室内へ響いたチャイムに、
スリッパをパタパタと音をたてながら、ドア
を開けに行く。
「元就公、開けて下さい」
とんとんとん、と小さく数回叩かれた。
インターホンがあるにも関わらず、ドアを
叩くのは元就がそうしろと命じたから。元就
にはインターホンがうるさいと感じての事。
それでも、光秀は念のためと最初に一度チャ
イムを鳴らしてからドアを叩く。
一応覗き穴で光秀だということを確認し、
チェーンロックを外す。ドアを開けた目前に
広がる青白。否、明智光秀。正方形の、白い
箱を片手に笑顔を見せていた。
元就と光秀が会うのは約1ヵ月ぶり。バレ
ンタイン以来。その間どれほど会いたかった
かと、光秀は抱きつきたい衝動を堪え、唇に
挨拶程度ねキスをする。
「お誕生日、おめでとうございます」
そう告げれば、元就はきょとんとした。
「今日誕生日でしょう…お忘れですか?」
「あ、あぁ…そうだった…」
ホワイトデーだ何だと慌てていた為元就は
自分の誕生日という事に気付かなかった。
第一誕生日を祝ったり喜んだりしたことは
なく、おめでとうなどと、子供の頃以来から
久しく聴いてなかった言葉に何処かこそばゆ
さを覚えた。
「と、兎に角入れっ」
部屋に引き入れられ、否、引き摺り込まれ
急な事で多少驚いたが、光秀はなんとか靴を
脱ぐことには成功した。
…一瞬だけ見えたキッチンに、光秀は目を
瞑り見なかった事にした。
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その領域には届かない(光就前提の親→就/お題)
- 2010/03/13 (Sat)
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その領域には届かない。
氷で固められた、深い領域には。
それは何時も唐突だった。
「よう元就、何だ夜這いか?って、違うか」
何の連絡も無しに元就が会いに来るだなん
て事すら珍しいのに。部屋に飛び込んで来た
途端に、胸に顔を埋めてきた。それはまるで
子供が親にすがりつくような抱きつき方だ。
「ちょ、そ…か、べ」
たどたどしく稚拙に紡がれた元親の名。
元親はただただ驚くばかりで、動揺に頭を
かかえたくなった。でも、きっと元就に何か
あったんだろう。辛い事を言われたのかもし
れない酷い仕打ちにあったのかもしれない、
逆に、何か元就にとっては辛かった事をした
のかもしれない。慰めになるか分からなかっ
たが、せめての思いで、震える頭をゆっくり
と撫でた。
「元就…」
「ちょうそかべ、長曾我部、元親」
変わらず震えたままで、何度も何度も元就
は名前を呼ぶ。
撫でれば撫でるほどに元就の震えは悪化を
見せているようで、かといって止めるわけに
もいかず、ただ頭を撫でてやる事しか、出来
ない。それでも尚、元就は不安気な声で元親
の名を口にしていたが、そのうち落ち着いて
きたのか、我は、我はと、違う単語が混ざり
始めた。
「我は、我は何故、生きて、いる」
そんな唐突な質問をされて、困惑しない者
はいないだろう。何故生きているのかなんて
自分にもわからない。なのにそんな事を他人
に訊かれて答えられるはずもない。どう答え
ていいのかわからず、視線を宙に游がせた。
やがて元就の呼吸が荒く早く乱れが混じり
始め、涙が頬から流れた。
「なぁ長曾我部…我は何故生きている?」
「もとな…」
「わからぬ、分からぬ!
我は生きる価値が無い
あれがおらねば何のために生きているか
分からぬのだ
我が生きる価値を見出だしてくれるのは
唯一この世であ奴しかおらぬ
光秀ただ一人だけしかっ!」
答えを求めていなかったのか、元就は嫌だ
嫌だとただをこねる子供ねように首を左右に
振った。そして見上げた元就の切な気な瞳の
中に元親の姿は映っていない。
それが辛く哀しいと思ったが、最初から元就
の瞳に映る事なんて無に等しかったのだ。
そう気付いたのはいつ頃だっただろうか。
そんな思いにふける元親にも構わず、元就
がドンドンと元親の胸板を叩くのは、明智へ
の怒りなのかはたまた哀しみの悲痛な叫びな
のか。元親はそれを黙って受け止める事が、
精一杯の宥めだと思った。
「なのになのにっ!
我は…… 何故…何故?
何故だ何故だどうして我は
国を捨てるという判断もあったのに、
我はそれが出来なかったのだ!
光秀…光秀…」
元親には名を口にしたくない程に気にくわ
ない男の名前を、元就はただ一心不乱に叫ぶ
ばかりでまともに此方を見てくれない。
元就が落ち着くまで抱き締めることしか
出来ないのが悔しい。
「我はあれがおらねば何も出来ない
あやつが居ぬ限り笑えぬ、作り笑いをする
事も出来ぬのだ!まともに仕事をする事も
手につかぬし呼吸をする度に光秀の苦痛を
感じるようで苦しくて息もままならぬ!!
どうしたら良いのだ長曾我部、
我は、我は光秀がなき後も奴からはのがれ
られぬ いまも、昔も、これからもだ!
あやつからは逃げられぬッ…」
胸にしがみつく指が握られて服が締め上げ
られる。布越しとはいえ爪が皮膚に食い込ん
で痛みを伴う。
「夜な夜なあやつが泣くのだ枕元で、
我の名を刹那に呼ぶのだ
痛い痛いと、嘆くのだ
だが我は何も出来ぬ。見ていることしか…
我はあやつを助けてやることも出来ぬ
あれを葬ったのは我なのに
我なのに!!」
厳島の惨劇が元親の脳裏を過る。
血に濡れた元就と、こと切れた明智。下唇を
噛み締め涙を流す元就は、今にも輪刀で自ら
を切りつけて、自害をする瞬間だった。それ
を止めた元親。抵抗する元就を気絶させ連れ
帰ったのは良かったが、数日間は錯乱状態で
手のつけようが無かった。
織田信長の命で瀬戸内に攻め入った、明智
光秀率いる織田軍。きっと明智は、最初から
元就を殺める気は無かったのだと元親は考え
ている。だけど元就は自分の守るべき国を、
恋人とはいえ多軍に攻め入らせる事は出来な
かったんだろう。
恋人を已む無くといえ殺めてしまった事を
元就は何時までも後悔している。前を見れず
後ろばかりを見て、進む事を拒んでいる。
「長曾我部我を助けよ
助けよもとちか我を助けてくれ
元親、頼むから
たすけて たすけて我を助けてくれ
ころせ我をたすけよ
助けよ 殺してくれ 頼むもとちか
われをあいしているのならば我を助けよ
ちのそこからすくいだしてみせよ
頼む助けてくれ!
殺してくれもとちか頼むから!
たすけて助けて助けてたすけてくれッ」
錯乱した元就にはどんな声も届かない。
だけど、そんな元就を昔から変わらずに今も
愛し続けている。だからこそこうして黙って
抱き締めているのに。
「やはりお前もわれを見捨てるのか
母上と同じように愚かに見捨てていくのか
我が怖いのか恐ろしいのか不浄なる狂気を
交えた穢らわしい血が流れている我が
忌々しい関わりたくないと思うのか
そうだろう長曾我部?
やはり我が嫌なのだろう?
だから貴様は助けないのだこの苦しみから
解いてもくれぬのだ すべて我には
分かっている分かっているのだ!」
「お前は、不浄なんかじゃねぇよっ…」
やっと紡いだ言葉すら、前向きに受け取っ
てはくれない。助けたいのに助けられない。
元就を楽にさせてやりたい、だけどそれは
出来ない。元就が望む救世主は此処にはいな
いのだから。
「だったら何故我を助けてはくれぬのだ
この苦しみから痛みから我を解放してくれ
ぬのだ。 やはり、
我をあいしていないからだろう 怖いのだ
ろう
汚ならしい血が、あの光秀を殺めた、
我が、嫌なのだろう?
だから貴様は我を助けぬ! 殺さぬ!
ああ殺してくれこの不浄な血を絶ってくれ
我を殺してくれ、
光秀のおらぬ世に未練は無いのだ元親
だからこの穢れた血が流れた身から解放し
てくれ頼む元親我を殺せ、殺せ
我を、殺してくれ
頼む…頼むからっ…
ころしてくれ、たのむ…ちか…ちか」
ぷつりと、糸が切れたように元就は静かに
なった。
「元就?…良かった…死んじゃいねぇか…」
叫び疲れたのか、精神的に限界だったのか
元就は目を瞑って、穏やかに寝息をたてて
いた。辛そうな顔をしながら、意識を手放し
て尚も涙を流し続ける元就の涙を指で拭う。
「元就、前を見てくれ…俺を見てくれよ…
こんなにもお前を心配しているんだ
なぁ、生きてくれよ…お前を殺すなんて、
俺には出来ないんだ…元就…」
抱き締める腕に力をこめた。
死なないでくれと刹那に願いながら。
いつか元就が戦場で見せた輝きを、脳裏に
思い浮かべながら。
―――――――――終
2010/3/12
『その領域には届かない』
お題配布元… 月と戯れる猫 様
氷で固められた、深い領域には。
それは何時も唐突だった。
「よう元就、何だ夜這いか?って、違うか」
何の連絡も無しに元就が会いに来るだなん
て事すら珍しいのに。部屋に飛び込んで来た
途端に、胸に顔を埋めてきた。それはまるで
子供が親にすがりつくような抱きつき方だ。
「ちょ、そ…か、べ」
たどたどしく稚拙に紡がれた元親の名。
元親はただただ驚くばかりで、動揺に頭を
かかえたくなった。でも、きっと元就に何か
あったんだろう。辛い事を言われたのかもし
れない酷い仕打ちにあったのかもしれない、
逆に、何か元就にとっては辛かった事をした
のかもしれない。慰めになるか分からなかっ
たが、せめての思いで、震える頭をゆっくり
と撫でた。
「元就…」
「ちょうそかべ、長曾我部、元親」
変わらず震えたままで、何度も何度も元就
は名前を呼ぶ。
撫でれば撫でるほどに元就の震えは悪化を
見せているようで、かといって止めるわけに
もいかず、ただ頭を撫でてやる事しか、出来
ない。それでも尚、元就は不安気な声で元親
の名を口にしていたが、そのうち落ち着いて
きたのか、我は、我はと、違う単語が混ざり
始めた。
「我は、我は何故、生きて、いる」
そんな唐突な質問をされて、困惑しない者
はいないだろう。何故生きているのかなんて
自分にもわからない。なのにそんな事を他人
に訊かれて答えられるはずもない。どう答え
ていいのかわからず、視線を宙に游がせた。
やがて元就の呼吸が荒く早く乱れが混じり
始め、涙が頬から流れた。
「なぁ長曾我部…我は何故生きている?」
「もとな…」
「わからぬ、分からぬ!
我は生きる価値が無い
あれがおらねば何のために生きているか
分からぬのだ
我が生きる価値を見出だしてくれるのは
唯一この世であ奴しかおらぬ
光秀ただ一人だけしかっ!」
答えを求めていなかったのか、元就は嫌だ
嫌だとただをこねる子供ねように首を左右に
振った。そして見上げた元就の切な気な瞳の
中に元親の姿は映っていない。
それが辛く哀しいと思ったが、最初から元就
の瞳に映る事なんて無に等しかったのだ。
そう気付いたのはいつ頃だっただろうか。
そんな思いにふける元親にも構わず、元就
がドンドンと元親の胸板を叩くのは、明智へ
の怒りなのかはたまた哀しみの悲痛な叫びな
のか。元親はそれを黙って受け止める事が、
精一杯の宥めだと思った。
「なのになのにっ!
我は…… 何故…何故?
何故だ何故だどうして我は
国を捨てるという判断もあったのに、
我はそれが出来なかったのだ!
光秀…光秀…」
元親には名を口にしたくない程に気にくわ
ない男の名前を、元就はただ一心不乱に叫ぶ
ばかりでまともに此方を見てくれない。
元就が落ち着くまで抱き締めることしか
出来ないのが悔しい。
「我はあれがおらねば何も出来ない
あやつが居ぬ限り笑えぬ、作り笑いをする
事も出来ぬのだ!まともに仕事をする事も
手につかぬし呼吸をする度に光秀の苦痛を
感じるようで苦しくて息もままならぬ!!
どうしたら良いのだ長曾我部、
我は、我は光秀がなき後も奴からはのがれ
られぬ いまも、昔も、これからもだ!
あやつからは逃げられぬッ…」
胸にしがみつく指が握られて服が締め上げ
られる。布越しとはいえ爪が皮膚に食い込ん
で痛みを伴う。
「夜な夜なあやつが泣くのだ枕元で、
我の名を刹那に呼ぶのだ
痛い痛いと、嘆くのだ
だが我は何も出来ぬ。見ていることしか…
我はあやつを助けてやることも出来ぬ
あれを葬ったのは我なのに
我なのに!!」
厳島の惨劇が元親の脳裏を過る。
血に濡れた元就と、こと切れた明智。下唇を
噛み締め涙を流す元就は、今にも輪刀で自ら
を切りつけて、自害をする瞬間だった。それ
を止めた元親。抵抗する元就を気絶させ連れ
帰ったのは良かったが、数日間は錯乱状態で
手のつけようが無かった。
織田信長の命で瀬戸内に攻め入った、明智
光秀率いる織田軍。きっと明智は、最初から
元就を殺める気は無かったのだと元親は考え
ている。だけど元就は自分の守るべき国を、
恋人とはいえ多軍に攻め入らせる事は出来な
かったんだろう。
恋人を已む無くといえ殺めてしまった事を
元就は何時までも後悔している。前を見れず
後ろばかりを見て、進む事を拒んでいる。
「長曾我部我を助けよ
助けよもとちか我を助けてくれ
元親、頼むから
たすけて たすけて我を助けてくれ
ころせ我をたすけよ
助けよ 殺してくれ 頼むもとちか
われをあいしているのならば我を助けよ
ちのそこからすくいだしてみせよ
頼む助けてくれ!
殺してくれもとちか頼むから!
たすけて助けて助けてたすけてくれッ」
錯乱した元就にはどんな声も届かない。
だけど、そんな元就を昔から変わらずに今も
愛し続けている。だからこそこうして黙って
抱き締めているのに。
「やはりお前もわれを見捨てるのか
母上と同じように愚かに見捨てていくのか
我が怖いのか恐ろしいのか不浄なる狂気を
交えた穢らわしい血が流れている我が
忌々しい関わりたくないと思うのか
そうだろう長曾我部?
やはり我が嫌なのだろう?
だから貴様は助けないのだこの苦しみから
解いてもくれぬのだ すべて我には
分かっている分かっているのだ!」
「お前は、不浄なんかじゃねぇよっ…」
やっと紡いだ言葉すら、前向きに受け取っ
てはくれない。助けたいのに助けられない。
元就を楽にさせてやりたい、だけどそれは
出来ない。元就が望む救世主は此処にはいな
いのだから。
「だったら何故我を助けてはくれぬのだ
この苦しみから痛みから我を解放してくれ
ぬのだ。 やはり、
我をあいしていないからだろう 怖いのだ
ろう
汚ならしい血が、あの光秀を殺めた、
我が、嫌なのだろう?
だから貴様は我を助けぬ! 殺さぬ!
ああ殺してくれこの不浄な血を絶ってくれ
我を殺してくれ、
光秀のおらぬ世に未練は無いのだ元親
だからこの穢れた血が流れた身から解放し
てくれ頼む元親我を殺せ、殺せ
我を、殺してくれ
頼む…頼むからっ…
ころしてくれ、たのむ…ちか…ちか」
ぷつりと、糸が切れたように元就は静かに
なった。
「元就?…良かった…死んじゃいねぇか…」
叫び疲れたのか、精神的に限界だったのか
元就は目を瞑って、穏やかに寝息をたてて
いた。辛そうな顔をしながら、意識を手放し
て尚も涙を流し続ける元就の涙を指で拭う。
「元就、前を見てくれ…俺を見てくれよ…
こんなにもお前を心配しているんだ
なぁ、生きてくれよ…お前を殺すなんて、
俺には出来ないんだ…元就…」
抱き締める腕に力をこめた。
死なないでくれと刹那に願いながら。
いつか元就が戦場で見せた輝きを、脳裏に
思い浮かべながら。
―――――――――終
2010/3/12
『その領域には届かない』
お題配布元… 月と戯れる猫 様
助けてあげましょう。特別にね(光就)
- 2010/02/22 (Mon)
- 戦国バサラ |
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ああ腹立たしい腹立たしい。
何が好きでこうも狭苦しい場所に居ねばなら
ぬのだ。
清く正しい毛利の衛兵が、鍛え上げた兵が、
たかが織田の遊女ごときにたぶらかされ出し
抜かれるなぞなんたる不始末、不祥事。
眼下にあったにも関わらず視野に捉えていな
んだ事は、取り返しのつかぬ失態。
それはひとまず棚に上げたとしても、織田の
考えには全く理解が出来ぬ。徳川や独眼竜の
ように、天下を取り安国とするため状勢統一
しようという考えならば少しは分かるような
気もするが、むやみに他国を潰す織田の素行
を見る限りあれはただの武力暴行としか思え
ない。
織田の放った手駒もかなりの荒武者だった。
この我が、全く行動を予測出来ぬ程に意外な
動きをする者で、向こう見ずの無鉄砲な者か
と思えば我が張り巡らした策を、いとも容易
く掻い潜り抜ていった強者。
配置された各部隊を、次々と壊滅させていく
様には心底寒気がしたものだ。
どんな屈強たる兵を引き連れた武将かと此方
から出向きその面を拝んでみれば、ただなら
ぬ異様さを放つ者が一人で斬りかかってくる
し部下は見当たらずと目を疑った。
そして気がつけばこうして狭苦しい牢にいる
という有り様。覚えているのは目前に迫った
不敵な笑みと峰打ちの痛みくらいか。
あれは思い出すだけで眉をしかめたくなる。
「毛利殿、長らくお待たせしてすみません」
先日戦場で見た時と同じ格好、得物を両手に
していた。側にいる家臣は脅えた表情で灯り
の蝋燭を手にしている。
「漸く我を殺しに来たか」
きつく睨み付けながら、そういえば此処に
来て初めてまともに口を開いたと気付く。
「いえ、それはまたいつかゆっくりと…
今日はこれから宴があるので…素敵な宴が
ね…ですので、貴方を特別に
此処から出してあげましょう」
奴の持つ二本の鎌が、射し込む光のほとんど
ない暗闇で妖しげに煌めく。
「宴…?」
「えぇ、楽しい楽しい宴ですよ」
【宴】と聞けば、普通は酒を呑み交わす事を
意味する筈だが、この者が言った【宴】は、
些か悪意に満ちたような、それでいて高潮感
を含んでいて、どことなく何かを予感させる
ものだ。
それに何故【宴】だからと此処から出られる
のかが分からない。
命令された家臣が持っていた鉄格子の施錠を
開け、「さあどうぞ…」と出るように促され
る。一体何が目的なのか意図が不明で動いて
良いものか判断しかねる。
罠にしては奴の意識が我には無く見え、その
目には更なる別の目標物を捉えているように
見える。邪悪な、何かが。
そして大して何の束縛もなく、簡単に逃走が
出来る姿で渋々後ろを追い歩き始める。
無警戒なのか、または習知の上での事なのか
は分からないが、無防備に後ろ姿を敵に見せ
るなど武士の風上にもおけぬと内心で悪態を
つく。
そして地上へ近くと共に、嫌に外が騒がしい
と気付いた。
――何かが可笑しい。
「騒がしい…」
「ククク…ですから…『宴』ですよ…」
わずかに呟いた言葉に目敏く反応を返された
事が気に障るが、奴が先ほどから発している
宴という言葉が気にかかった。
尋ねて良いものかと暫し考える。とはいえ、
そう長く考えている訳ではなく、ものの数秒
の時間だ。我にとってはだいぶ長い時間考え
ていたといえる。
「宴とは――」
口を開いてから、【宴】が何かを知る。
何もかもが燃えていた。
暗い夜空が赤く染まり、火の粉が辺りにちら
ちらと舞っていた。
「―――綺麗でしょう?
本能寺は実に美しく燃えるものですね…」
確か、織田軍が主領地としていた中に本能寺
という建造物があったのを脳内に広げた地図
から思い出す。
だが奴は――明智光秀は、あの魔王と名高い
織田信長が一目置く家臣の一人の筈だ。それ
が主君に牙を見せている。だとすればこれは
立派な反乱ではないか。
「何故、世界の全てを手にしてしまえる程の
器量を持った織田に刃向かう」
知らぬうちに口から紡がれていた言葉に、
明智はこの状況が実に楽しいと言わんばかり
の笑みを口元に携えて答える。
「簡単ですよ…私はあの方と戦ってみたい、
倒してみたい、通った血を見、肉を裂いて
みたいという…その欲望のみで、信長公に
仕えていたまで」
「それに私は天下などに興味はありません」
初めから忠誠など無く、ただの標的としか
見ていなかったという事か。己の欲望のみの
為に仕えその首を断つ機会を始終伺っていた
とは、今の乱世ありふれた話とはいえこの者
だと尚更恐ろしい気がする。
ただでさえ、邪気に加えて更にはただならぬ
死臭を漂わせているのだから。それをまとも
に受けていた織田も相当の者といえようが。
「少し、信長公と遊んできます」
燃え盛る本能寺。
奴は其処に向かう、気狂いの狂人。
「どうです、貴方もご一緒しませんか?」
愉しげに振り返った。
浮かべる笑みは、さながら狩りをする悪魔と
云えようか死神と例えようか。
「下らぬ事に巻き込むな」
「そうですよね…まぁ…逃げるも国に帰るも
何処へなりと行きなさい。
宴が終わり、もし私の気が向いたその時は
探して逢いに行きますので…
…貴方をゆっくりと味わう為に、ね…」
細められた眼に、奮えと殺意が混じる。
――なればその時は、この我に一日といえど
屈辱を味会わせた罪を晴らしてくれよう。
そう殺気を込めて言い返せば、愉しげに笑み
を見せて、奴は最上の宴へと向かった。
踵を翻す。
安芸に戻る為に。安芸と、毛利を守る為に。
明智を迎え撃つ為に。
その時が来るまでこの命、何人たりと奪わせ
ぬと腹に決めた事は、生涯忘れなかった。
―――――――――――――――終
2010/2/15
『助けてあげましょう。特別にね』
お題配布元… 月と戯れる猫 様
――――――――――後記―――
本能寺の変ですね、えぇ。一度こういうネタ
を書いてみたいなと思っていたんですよ。
因みに執筆中BGMは「眠れ緋の華」です。
毛利は死ぬまで明智を待っていたんですよ…
きっと。まぁ結局病気には勝てなかったそう
ですからね…神を恨んだでしょうねぇ…
というか、お題がいかせてない(^人^;)
捕らえた毛利を逃がす話が書きたかったのに
いつの間にか本能寺の変の話が主体になって
いたという不思議(苦笑)
コミックシティ東京123前日
- 2010/01/16 (Sat)
- おしらせとか戯言とか |
- CM(0) |
- Edit |
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明日はいよいよコミックシティ東京123の
開催日ですね。どきどきして寝れないです。
あ、サークルNoは東2、G32aです。
明日の持参商品は…
戦国BASARAオールキャラアンソロ
『BASARA主義!』
500円/B5/54P/表紙カラー/コピー/全6名
リボーンミニメモ4種セット
50円/4種×5枚(計20枚)/約B7
恋姫†無双 曹操便せん
100円/10枚入/B5
…というラインナップですね。
制作日付は昔のですがどれも初売です。
持参分が完売した場合は注文受付します。
住所メモその場で書いて、代金渡せば後日に
メール便でお届けします。送料は此方負担、
上記と料金変わらずで注文出来るので、通販
で買うより100円程度安いです。
当日スケブ…スケッチブックは、何も買わな
くても喜んで描かせていただきます。ってい
うか描かせて下さい…暇だと思うので。サイ
ズはB5が限度…って普通か…
ちなみに、ロン毛で眼鏡かけてないのが私で
髪短くて眼鏡かけてる方は相方(?)です…
相方はスケブ受けるかわからないですが一応
訊いてみたらもしかすると描いてくれる……
…かもしれない(^_^;)
お釣りはあまり用意出来ないので…出来るだ
けお釣りの無いようにお願いします。
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